Ph.D.企業研究者の思考貯蔵庫

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修士で論文を書いた話

 博士号をとるためには、国際誌への論文投稿が必須となります。なので「論文を書くのは博士号をとる人だけでよい」と思われがちです。でも、僕の意見では修士課程の方も論文を書くべきです。本記事では、僕の経験をもとに、論文を書くメリットを説明していきます。

 

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目次

 

 

修士で論文を書く

 僕は、4年生で研究室に配属され、修士1年の時に初めて論文を書きました。その経験が研究者生活にとても役立っていますし、博士号を取ろうと決断したのも論文のおかげです。

 でも、修士課程で論文を書ける人はとても少ないです。僕の卒業した大学では、上位5-10%くらいでしたね。

 修士で論文を書ける人のパターンは二つ。

 

1. 先輩の研究の引継ぎで、ちょうど論文化できるタイミングが来た。

 これは運要素が結構強いです。研究室に配属されたときに、どの研究テーマにアサインされるかは、教授が決めるパターンが多いと思います。なので、自分でコントロールできません。研究室配属までに、教授に好印象を与えておいて、良い研究テーマにアサインしてもらえるように根回しすることが大事かと思われます。もちろん、そんなことできない場合も多いです。

 ただ、研究室で引き継がれるテーマに関しては、ある程度データが出る見込みがあると思われるので、可能性はあります。

 

2. 研究の立ち上げから論文化まで修士の間にできた。

 これは難易度が高いです。どれだけ短い期間で達成できる研究をデザインするかが全てですし、全くデータが出ないなんてこともあります。

 研究デザインを自己責任で行い、結果は運任せ。ギャンブルです。修士修了時に鳴かず飛ばずの研究になっていることもしばしば。リスクが高い。

 

僕の経験

 僕は、上記2でした。研究の立ち上げから論文化まで修士の間にやりました。なぜかというと、教授に新テーマをアサインされたからです。

 僕は、良いテーマをアサインしてもらおうと思って、教授に好印象を与えるよう活動していました。研究室配属前に、教授の授業で質問するとか、研究室を訪れて話を聞くとか、教授の授業の試験で満点を取るとか、存在感を上げるようにしました。

 結果、存在感を上げすぎて、あいつなら何とかするだろうと思われ、新規テーマをアサインされました

 

 完全に誤算です。

 

 しかも、そのテーマは完全なる新規テーマで教授のJUST IDEAをベースにしていました。なぜか、微生物の研究室で植物を育てるという考えられないぶっとびようでした。

まず。実験試料を育てるのに、配属されてから半年を使いその間No Dataで進めました。

 

 でも論文を書きました。

 

論文執筆のスケジュール

僕がどうやって論文を以下にスケジュールを書いていきます。

1年目  4月  研究室配属 新規テーマ開始。

           5月  どの植物を使うか決まる。

           6月  種の仕入れ先を見つけ、発注。

           7月  種から発芽し、満足。

           8月  大学院入試のため、勉強に専念。当然植物は枯れ、実験はリセット。

           9月  種を植える。

         10月  始めての実験サンプルができる。実験開始

         12月  一通り遊び実験をする。

   3月  ほぼNo Dataで卒論を書く。

       同3月  個人的に参加した学会で、僕が使っている植物の専門家に会う

        正しい実験手法を教えてもらう。

 

2年目 5月  サンプル量が100倍に!  

          6月  嬉しくて朝から晩まで実験し続け、1つデータが出る。

      同6月  それを見た教授が学会に行かせてくれることに。

    6-10月  データが足りないので、死ぬほど実験する。

       10月  はじめての学会

       12月  教授から「論文を書け」とのお達し。年末休暇がなくなる。

    1月  論文が上手く書けず泣く。プチ鬱。

    3月  なんとか初投稿

 

3年目 8月  論文が掲載される。

 

ということで、M2の8月に何とかして論文を仕上げることができました。このおかげで、後に書きますが、それからの研究者生活を順調に進めることができます。

 

なぜ論文を書けたのか?

 私の経験を振り返って、ポイントはあります。

①研究一年目の過ごし方

 研究一年目は教授の無茶ぶりにより、No Dataで終わりました。ただし、その間何もしていなかったわけではありません。

 ・その植物の分野の論文を読み漁った

 ・どんな実験をやりたいか妄想し続けた

 ・実験量が少なかったので、その分思考することに回せた。

というのが大きかったでしょう。特に実験サンプルがあると意味もなく実験しがちなのですが、僕にはサンプルがなかったため、すべてを考える時間に回せました。

 

②学会で専門家に出会えた運

 これがなければ、研究が破綻していたでしょう。出会った先生が良い人で、実験方法の資料を送ってくれたり、研究室に見学に行かせていただいたり、とてもお世話になりました。その後実験サンプルの生産性が100倍に上がり、多様な実験をできました。

 

③教授の無茶ぶり

 学会参加も、論文執筆もかなり見切り発車でプレッシャーを与えられました。教授なりのマネジメントなのでしょうか、かなり厳しかったです。泣きながら論文を書いていました。でもそのおかげで修士で論文を書けました。

 

④なんといっても研究が好き

 これは研究者の基本ですね。以下の記事にも書いてます。

rhizobium.hatenablog.com

 

 ということで、 私はいくつかの幸運と、なかなか得られない考える時間を十分に得られたことで論文を書くことができました。

 考えずに研究をしていると、論文を書くことは達成できなかったと思います。また、実験に縛られない分、いろんな研究者と会い、幸運の出会いに恵まれました。

 

僕じゃなくても再現できるか?

 僕の意見では、ある程度可能だと思っています。ただ、かなり大変です。ポイントは3点、

①手数を増やすこと

 手数というのは、

 ・研究デザインのパターンをどれだけ持っているか。

 ・どれだけ多くの実験を企画するか。

 ・同じ実験サンプルからどれだけのデータを取るか

 という研究のことも含みます。実験が成功するかどうかは打率が低い(バイオ系の場合)ので、どれだけ多くの実験を企画し、同時に実施できるかが問題となります。

 また、研究テーマを一つに絞る必要もありません。同じ実験サンプルで2,3個の研究テーマにつながる実験を実施してもよいわけです。なので、手数を増やしましょう。

 

②じっくり考える時間を十分にとること

 上記のことは、実験で忙しくしながら考えることは厳しいです。なので、実験が終わって寝る前とか、朝起きたときとか、バイトしながらとか、脳の余ったメモリを思考に当てましょう。そうするとじっくりと考えることができます。

 

③他人の知識を取り入れること

 論文を読むのはもちろんなのですが、実験が再現できなかったりします。なので詳しい人に徹底的に聞く、相談するというのが大事です。

 また、研究デザインなどに関しても、人と話しながら考える方が正確なものができます。できるだけたくさんの情報を仕入れ、それを基に考えることが重要です

 

あとは運・・・

 論文が書けるかどうかなんて、正直言って半分以上は運です。僕は運が良かった。それだけです。データが出るかどうか、研究室のスタイルなどに依存します。運は再現できないので、ここまでして論文がかけなければ運が悪かったということになります。

 だからこそ、運以外のファクターを除くことで可能性を上げましょう。

 

 

ということで、まずここまでで一区切り。

ここからは、

修士で論文を書くと何が良いのか、

という点で書いていきます。

 

続きはまた今度、更新しながら書きます。→6/12書きました。

 rhizobium.hatenablog.com