Ph.D.企業研究者の思考貯蔵庫

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AIに支配されないために、人文科学を鍛えよう!(2/2)

 先の記事では、AIの仕組み、ブーム、限界、幻滅期について書きました。本記事では、AIに奪われない仕事について僕なりの意見を述べようと思います。

 

 rhizobium.hatenablog.com

 

 こないだ、立教大学の講座に出席しました。初めて行きましたが、めっちゃカッコイイですね。来年の4月から立教大学にAI学科ができるとの事で、その宣伝イベントであるセミナーが開催されました!!

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 講師はChristian Madsbjergさん。ReD ConsultantのCEOです。また、ベストセラーであるSensemakingも執筆していらっしゃいます。(僕は未読です。)話が非常に面白かったので、この記事でも一部内容を出しています。 

センスメイキング

センスメイキング

 

 

目次

 

 

AIのできること・できないこと

 よく話題になる「AIに取って代わられる仕事」という話題があります。それはAI(=多層ニューラルネットワークを用いた深層学習)の本質を分かっていれば推測できます。すなわち

・AIのできる仕事 = 容易に入力と答えを準備できる仕事

・AIのできないこと = 容易に入力と答えを準備できない仕事

となります。

ここで、容易に入力と答えを準備できる仕事というものを例に挙げてみてみます。

囲碁・将棋などのゲーム:ルールが存在し、勝ち負けで仕事の出来を判定できる。ルールがしっかりと定義されており、学習しやすい。なのでAIの最初の標的となった。

クイズ:問い(入力)がはっきりしており、wikipediaなどに答えも記載されている。問題文のセマンティック分析ができれば、問題なく答えにたどり着く。

窓口業務(限定的な会話):クイズと同じで、顧客の求めている答えをカテゴリ化し、分類して出力するだけ。入力・答えが業種によって異なるが、データ量を準備できれば問題なく働くことが実証されている。

自動運転: 難易度が高いものの、ニーズが大きいので、大手企業がたくさん参入し多額の資金が投入されている。それだけの資金があれば、データ(映像)とルールを学習させて、実現が可能になる。

 

以上のことからわかる通り、AIのできる仕事というのは、入力がはっきりしており、仕事に一定の基準が存在し、その基準を満たせば成功となるものです。

一方で、AIにできない仕事は何なのか、見ていきましょう。

①観察

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 皆さん、この絵から、何が読み取れますか。AIの読み取れることと、読み取れないことを分類していきましょう。

AIの読み取れること

 猫・3匹・猫の年齢・猫の種類・海・堤防・コンクリート・波が穏やか・山

こういった事象を読み取ることができます。試してみたければMicrosoftが出しているSeeing AIというもので読み取れるはずです。iPhone専用なので、Androidの私には使えませんが。

 

Seeing AI

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  • Microsoft Corporation
  • 仕事効率化
  • 無料

 さらに進化して、最新技術では、「猫がジャンプしている」ということが読み取れるようになったそうです。

AIが読み取れず、人間が読み取れること

 ・猫がジャンプしている。(一部AIには可能)

 ・野良猫のように見える。

 ・漁師町で、おそらく漁師から餌をもらっているだろう。(情景からの想像)

 ・実は4匹いる。(写真をよく観察して、しっぽの数から判断)

 ・かわいい。癒される。(猫を見た時の感情)

 ・海に落ちないだろうか。(写真の情景からの感情)

 上記のように、写真の背景のところを読み取る、想像する、もしくは感情を呼び起こすことができます。これは人間特有のものです。なぜ特有かというと、こういった個人差のある、かつ文脈を読み取るような答えは、AIに学習させる答えとしては不適切で、下手に学習させるとポンコツAIができるからです。また、AIは「人間の知能のようにふるまう」ことはできますが、実際には感情を持ちません。(将来的にはわかりません)なので、こういった観察から生まれる想像・感情はAIには置き換えられません

 Christian Madsbjergさんの講演で、「観察が最も大事だ。」とありました。観察とは、これまでの人間の歴史、文化、文学、アートなどをもとに得た情報から、ある事象を捉えなおすことです。これらの分野はAIには置き換えづらいので、この分野を鍛えることが最も重要であるというのが彼の主張です。

②アート・デザイン・文学

 これは想像に難くないでしょう。そもそもインプットが人間の内なる感情であり、その部分を価値基準として評価されるので、AIに作らせても価値が生まれない分野です。もしかしたら、椅子のデザインに関しては、AIも可能かもしれません。ですが、研究デザインであったり、ビジネスモデルデザインといった形を持たないものに関しては、置き換えることができません。

 最近、AIが短編小説を書けたというニュースがありました。ですが、意味は通るけど、深い意味はない文章でした。この深い意味というものは、人間にしか出せないものですので、AIには今後もできません。

 

 このことをまとめると、AIにできないことは、人文科学の分野なのです。特に非論理的思考に関しては、AIはまだまだできるようになりません。ですので、今学ぶなら人文科学だと声を大にして言いたいです。

 

人文科学を取り巻く状況

 とはいえ、人文科学が取り巻く状況は、今かなり悪いです。大学の研究費は文系分野からどんどん削られ始めています。「文系の学部はいらないのでは」という極端な意見もたまに目にします。ですが、そうではなく、これからの時代は人文科学を、といえる世の中こそ、更なる人類の発展に貢献するのではないでしょうか。

 また、リカレント教育も流行っており、人文科学を学びなおす機会もたくさんあります。理系博士の妄想ですが、これから僕も人文科学、特に哲学分野を勉強していこうかと考えています。皆さんも今一度、人文科学を見直してみてはいかがでしょうか。