企業は博士を必要としているのか?
博士を取得したのちに企業で研究している人ってかなり少ない印象がありますよね。バイオ系に関してはほぼ製薬企業しか博士を取らないイメージがあります。
そういうイメージを抱えながら、データを探索していると、面白いものを見つけました。
NISTEP:「民間企業の研究開発に関する調査報告書」
http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-NR181-FullJ.pdf
この報告書からは、企業の研究開発における統計データがまとまっており、かなりの考察ができそうですが、この記事では企業における博士についてのデータのみをまとめ考察します。
目次
企業は博士を採用するのか?
企業は博士号も持った人を採用するのでしょうか?これが一番の疑問です。実際はどうなっているのかデータを見てみましょう。
修士号取得者を採用した割合は43.9 %、博士号取得者を採用した割合はなんと
13.0%です。
どう思いますか?非常に少なくないですか。採用した企業が168社です。この文書では、アンケートを送った資本金1億円超の全企業のうち、回答率が50%強なので、
博士を採用する企業は日本に300社程度
だと類推することができます。全業種合わせてでこれは少ない。
この表もわかりやすい。資本金100億円をこえる企業でも博士の採用数は
平均値 1.3人 中央値 0人
ということです。
これについて報告書では、
博士課程修了者やポストドクターを採用した企業の割合が低いという結果は、博士課程修了者やポストドクターといった研究開発者が、学士号取得者や修士号取得者と比べて供給量が少ないことも影響していると考えられるが、企業の求める人材がポストドクターでは得られない可能性や、採用情報が広く認知されていないなど人材のマッチングがうまく機能していない可能性も考えられる。
と述べています。採用情報の認知の問題もありますが、求める人材が得られないというマッチングが一番の問題なんでしょうね。
結論からすると、悲しいことに日本の多くの企業は博士を欲していないということです。
博士課程修了者の採用数が多いのは医薬品製造業(2.1人)である。
ということなので、バイオ博士を取ったら医薬系に行くのが王道ということでしょうね。
博士の評価
採用した博士が期待通りだったのか。下図はよく見る図ですが、博士は期待より上回る可能性が高く、期待より下回る可能性が低い、ということで、それなりに評価されているのだと思います。
このグラフが定性的な評価(一企業につき一回答)であるということ、主観による評価であるということは突っ込みどころですが、
ここから考察できることは、博士の採用は厳しく見ているので、期待を下回る可能性が少ない、とも読み取れます。
博士に求められること
この図はとても興味深い!
他の学歴と求められることが異なっていますね。特に以下の4点が求められています。
・技術変化への順応性
・関連する研究分野に幅広い知識を持つこと
・研究についての人材ネットワーク構築
・国際的なコミュニコーション
一方で、
・特定分野について深い専門分野の知識を持つこと
については、学士、修士とほとんど変わりません。これはいったいどういうことなのか。
これらの情報をもとに求められる、企業が求めているPh.D研究者像は
幅広い知識と人材ネットワークを持ち、国際的に活躍できるGeneralist系の研究者
ということになります。
専門性に特化した研究者は求められていないということです。
まとめ
NISTEPの情報をもとに、私の意見をまとめます。
①博士号を持った研究者を求める日本企業は少ない。
②バイオ系の博士は医薬品製造業を選ぶのが王道。
③ジェネラリスト系で英語ができる研究者を求めている。
まとめてみて、とっても世知辛いですね。私自身も勉強になりました。
博士研究者はアカデミアにも企業にもポストが減少していて、厳しい世界です。こんな事態が起こっているのは日本特有の問題です。もっと博士の重要性を日本に広めないと。それとも日本を出るのが良いのか。難しい話題です。
あくまで私の意見なので、博士の就活生はあまり本気にしないでください、と言っておきたい。