Ph.D.企業研究者の思考貯蔵庫

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博士(農学) → 企業研究者 Twitter → @rhizobium13

【バイオ系必見】これから目指すべき研究分野とは

 日本はすでに科学技術の分野で世界から随分と差をつけられており、また従来は優位性を持っていた基礎科学能力でも、今は落ちる一方で、米国や中国から相当な差をつけられています。

 日本の科学技術が生き残るためには、「選択と集中」をして、リソースを効率よく分配し、その分野の中で優位性を担保するしか、方法はありません。これは私の意見ではなく、日本の政府の意見です。

  ということで、今回の記事は、日本の社会動向を見た上で、今注力すべき研究分野を見ていきます。

 

目次

 

バイオ戦略2019

 まず、情報収集をするうえで、日本政府の情報というものは大事になってきます。6月に統合イノベーション戦略推進会議から、2030年までに日本が目指すべき方向性を示した

 「バイオ戦略 2019(案)」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/dai5/siryo3-2.pdf

が発表されました。

 ここには、これから日本が注力するバイオテクノロジーの9分野が載っております。

 下記9分野には、日本政府がリソースを集中し、国内外の投資も呼び込むと宣言する案になっております。

 

 日本政府がこういったことを宣言するということは、

 ① 国家予算が付く

 ② それを見た機関投資家が資本を投入する

という流れになります。

 

アカデミアの方にとっては、この分野の研究申請書が通り安くなるかもしれません。また、国プロもいくつか立ち上がるでしょう。

 企業にとっても、法規制や優遇などの問題を考えると、この分野に参入することにはメリットがあります。(そうさせるように国が方向づけています。)市場が活況すると考えてよいでしょう。

 なので、こういう政府の動向を注視するのは効果的です。

 

それでは。一つ一つ見ていきましょう。まとめたものは以下の図です。

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① 高機能バイオ素材(軽量性、耐久性、安全性)

‧ 持続可能な(経済合理性・環境適性を両立)炭素循環社会の実現は、世界共通の課題であり、軽量強靭なバイオ素材に対するニーズの大幅な拡大が予想(特に健康医療分野、モビリティ分野)

‧ 我が国は素材技術及びその利用領域(車など)に強みあり

‧ 産業化に不可欠な生産培養技術を強化することで素材開発を促進、世界市場を開拓

 

➡ SpiberとかBolt threadsとかのタンパク質繊維のことを意識しているんでしょうか?それとも植物由来のプラスチックのことを言っているんでしょうか。バイオゴムという手もありますね。炭素含有繊維ということですが、ここにバイオが生きてくるのか?

➡ 投資家目線では資金を投入したくなる気持ちはわかる。でもSpiberとかの惨状をみていると、ここにリソースを投入してリターンを得られるかは甚だ疑問。

 


バイオプラスチック(汎用プラスチック代替)

‧ 世界的課題である温室効果ガス削減に対応した化石資源に依存しないプラスチックの製造が実用化していないこと、廃プラスチック有効利用率の低さ、海洋プラスチックごみ等による環境汚染が世界的課題

‧ 我が国はプラスチックの適正処理・3R 等のノウハウが豊富であるとともに、我が国の豊富な遺伝資源と競争力のある素材物性情報はバイオプラスチックの開発において有望な資源

バイオプラスチック生分解性プラスチックの開発を促進するとともに、静脈システム管理と一体となった導入システム構築により世界市場を開拓

 

 

生分解性プラスチックはカネカのPHBHが有名です。年5000 tの生産を目指しているとか。ポリ乳酸とか、その他バイオプラは、成形性に不安があるので、そこを解消する製品を、ということでしょう。

政府の規制があるということかもしれませんね。

 

③ 持続的一次生産システム

‧ 急激な経済成長を遂げるアジア・アフリカでは、農業の生産性の向上が求められるとともに、よりおいしい食などニーズの多様化が予想。また、気候変動・環境問題が深刻化する中で、持続的な一次生産(肥料、水、労働力等の最適利用、廃棄物・排水処理から生産される堆肥の循環利用など)が必要

‧ 我が国は育種に不可欠な世界トップレベルの遺伝資源を保有するとともに、世界レベルのスマート農業技術・システムを構築。これらの強みを生かして、多様なニーズに対応した持続的な一次生産の実現が可能

‧ スマート育種により、多様なニーズに対応し、気候変動に強い品種等を開発するとともに、スマート農業技術・システムを組み合わせて世界市場を獲得

 

 

規制緩和がないと、ゲノム編集領域が成長せず、従来の育種のみになってしまう。規制緩和すると海外からゲノム編集作物がどんどん入ってくる。

 

有機廃棄物・有機排水処理

‧ アジア・アフリカの人口増加や急激な経済成長に伴い、世界の廃棄物の急激な増加、環境問題の深刻化に対応する環境浄化関連市場の大幅な拡大が予想

‧ 日本は、経済成長に伴う環境問題を克服した経験があり、廃棄物・排水処理は世界最高レベル

‧ 世界に誇る我が国の廃棄物処理・リサイクル・排水処理の経験・ノウハウを活かして、堆肥化や、化学品化等高付加価値を有する物質・素材等への転換を図るバイオを活用した資源循環システムの構築等により、市場を獲得・拡大

 

 

➡ イエバエ研究のムスカがここらをやろうとして、大手商社が資金投入しているけど、方々で言われているよう彼らの技術には疑問が残る。ここをもっとイノベーティブなビジネスアイディアで乗り切れないか。


⑤ 生活習慣改善ヘルスケア、機能性食品、デジタルヘルス

‧ 世界的に生活習慣病が増加する中、世界の健康関連市場が拡大

‧ また、東南アジア等健康保険制度が発展途上にある国においては、医療に依存せず健康を維持・増進するニーズが高く、健康に良い食は極めて有望な市場

‧ 日常生活から医療まで様々なデータを取得し活用するヘルスケア市場・医療は欧米を中心に各国が着目し、ウェアラブルバイス・アプリ等のデジタル技術を使ったサービス・機器の開発や、診断・治療法の研究開発が活発化

‧ 世界的な健康長寿国である我が国の生活習慣と健康に関するデータ、我が国の医療現場に存在するリアルワールドデータの良質さ・豊富さ、日本食等健康長寿に資する食・飲料は有望な資源

‧ これまで分散し眠っていた健康・医療関連データをビッグデータ化し、バイオテクノロジーと組み合わせることや、健康に良い食の解明・開発とそのオーダーメイドな提供を通じて、本市場領域を発展させ、健康・未病段階のセルフケア・早期発見、代謝異常に備えた予防、臓器障害における治療と重症化・再発予防を切れ目なく行う社会システムを世界に先駆けて実現し、世界市場を獲得。「AI ホスピタルシステム」も事業化し、新市場を創出

 

➡ ここは言わずもがな重点領域。予防医療でどれだけ医療費を抑えられるか。とにかくデータサイエンスが苦手な国なので、国が旗降って、大規模リソースを投入してやらないと。

 

⑥ バイオ医薬・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連産業

‧ バイオ医薬品や再生医療等の研究開発が進み、バイオとデジタルの融合により、今後、バイオ医薬品や再生医療等の本格的な産業化と巨大な新市場の創出が期待

‧ 我が国には、伝統的な基礎研究の基盤が存在するとともに、伝統的な発酵産業で培った微生物・細胞培養技術等は有望な資源。カイゼンや品質管理などのものづくりへの真摯さも強み

‧ 川下側で重要となる細胞培養・運搬・受託製造等のデジタル化・AI 化・機械化を図り、原料となる細胞等の供給から製造まで一貫したシステムを開発し、特に創薬分野の共通的な関連産業市場を押さえることで、再生医療等の本格的な産業化の際の大市場を獲得

 

➡ 今の時代、バイオ医薬はどれだけの質と量のスタートアップが生まれたかに依存するが、日本で成功しているのはペプチドリームくらいか。日本の柱とするにはちと弱いきがするな。

 

⑦ バイオ生産システム(バイオファウンドリ)<工業・食料生産関連(生物機能を利用した生産)>

‧ 工業、食料生産等に必要な生物機能を利用した生産技術が米国を中心に急成長中

‧ 我が国の微生物資源、地域の生物資源、発酵技術は有望な資源。カイゼンや品質管理などのものづくりへの真摯さも強み

‧ 合成生物学や未利用微生物の実用化も含めた微生物等の育種から生産に必要な大量培養に至るまでのプロセスの高度化と徹底したデジタル化・AI 化・機械化を図り、本市場領域の国際競争力を飛躍的に向上させ、市場を獲得

 

➡ 我が国の合成生物学はアメリカに二周遅れなので、追いつくにはなかなか厳しい。一方で、プロセスの高度化などは得意なので、そこを生かしていくべし。

NEDOプロでもAI×生物学は大失敗してるから、ほんとにAI化・機械化をするならリソース一点集中で出してほしい。

 

⑧ バイオ関連分析・測定・実験システム

‧ 全産業がバイオ化する状況の中、バイオ関連産業も今後、大幅な拡大が期待

‧ 我が国の先端計測技術、ロボティクス等の要素技術は国際競争力あり

‧ 我が国の要素技術を活用し、バイオ関連の分析・測定・実験プロセスのシステム化や測定方法の国際標準化等を図り、海外市場を獲得

 

➡ 日本はここがかなり強い。でも国際標準化まで行くか。。方策が気になる。

 


⑨ 木材活用大型建築・スマート林業

‧ 建築物の木造化、木質化は、温室効果ガス削減効果が極めて高いことから、その可能性が着目されており、欧州、北米を中心に木造高層ビルの建設に官民を挙げて挑戦。鉄、コンクリート代替としての木材需要の増大が予想

‧ 我が国の木材自給率はここ 15 年間でほぼ倍増。木材輸出も増加し、戦後開始した植林による人工林は、2020 年には約7割が主伐期を迎えると見込まれるなど、林業・木材加工も成長産業化の兆しがあるとともに、スマート林業に将来性あり

‧ 我が国の伝統ある高い木造建築技術、世界から評価される美しい設計、正確な施工管理、耐震技術を強みとして、木材活用大型建築を国内において普及させ、さらに、木造住宅の輸出による海外市場を獲得。将来的には木材活用大型建築に拡大

 

 

➡ この分野は全く知らず。日本は森林が余っているので確かに競争力はある。この分野はまだブルーオーシャンだと思われる。いいとこに目をつけるなぁ。

 

 

 これらの分野は市場の活況が予測されるので、できるだけ早く情報収集をし、それに基づいた研究の方向性や事業展開をしていく、ということを強くおすすめいたします。また、学生にとっても、社会動向を見ておくのはとても良いことです。

 この分野はおいしい案件が転がっていそうなので、どんどん参入していきましょう。