理系大学院生が博士課程に進むときに考えるコト② (博士に進むメリット・ラボ選び)
Ph.D.はよく足の裏の米粒に例えられます。「取っても食えないけど、取らなければ気持ちわるい。」それくらい、Ph.D.それ自体にはあまり価値を見出されない世の中になってしまっているんですよね。でも修士で終わると中途半端だから、博士まで進んでしまう、と。なので、ここでいったん真面目にメリット・デメリットを考えてみませんか?
(いらすとやより転載)
前回の記事では、博士課程に進むときに考えるべき
・博士課程の素質
・博士課程に行くためのお金
の話をしました。これが進学のための最低条件です。読んでない人はぜひ読んでみてください。
今回の記事では、博士課程のメリット・デメリットという話をします。よく質問されることですので、みなさん気になっていることかと思います。ラボ選びとセットでまとめさせていただきます。
目次
博士課程に進むメリット
①Ph.D.が取れる
当たり前でしょ。って思われるかもしれません。ですがPh.Dをとってできるコトを明確化しておきましょう。
Ph.D.は研究者の免許です。研究者と名乗るためには必須になります。アカデミアの研究者には必須ですし、企業研究者としても持っているとかなり便利です。
僕は今、Ph.D持ちの企業研究者ですが、メリットをかなり感じています。それは今後記事にしますが、昇進しやすさ・理不尽な異動を避けられる・海外と一緒に仕事をしやすいという点です。なので、企業に勤める際も、ある程度自分の思い通りのキャリアを描けるということになります。ですので、ご自身のキャリアデザインにPh.D.が必須の方は通るしかない道です。
※これ以下の②~④に関しては、研究室のマネジメントスタイルに依存します。以下のどの研究室で博士課程に進むかという項目を参照してください。
②自分のしたい研究で専門性を高められる
良い研究室で適度な裁量権を学生に与えてくれる研究室であれば、自分のしたい研究をベースに専門性を鍛えられます。さらに自分で研究費を持っていると最強ですね。自分のしたい研究を全身全霊で追求できる期間は、ライフステージなんかを考慮しても博士課程の間が一番だと思います。なので、精一杯研究を楽しむために博士課程に行くのは、よいモチベーションです。
③マネジメント能力・リーダーシップが身につく
博士課程ともなると、一つの研究テーマのリーダーをしていることが普通です。自分の研究テーマを持ち、スタッフからも信頼され、学生の面倒を見たりテーマの進捗管理をしたりします。そのうえで、社会人として必須であるマネジメント能力・リーダーシップを若いうちから鍛えることができます。これは、修士課程で就職した人とは異なることです。これらをうまく鍛えられれば、どこに行っても価値のある人材になることができます。
④幅広い人脈が構築できる
研究者の大事な要素として人脈があります。どの先生を知っていて、どこにコネがあるかは研究者を評価するうえでの一つの価値基準になります。コネは指数関数的に増えていきますので博士課程の3年間だけでも相当な数の先生や学生と知り合えることでしょう。また、博士課程の同期は他大学で苦労を分かち合える大事な仲間なので、今後一生付き合っていくであろう友人も得ることができます。
博士課程に進むデメリット
①お金を失う
前回も記事にしました。とにかく博士課程にはお金がかかります。3年間で500万くらいでしょうか。なかなか大変です。その分、修士で就職した友人は1年で数百万稼いでいるわけです。複雑な気持ちになります。
→ただしこれは学振をとることで回避できるので、頑張って獲得しましょう!
②Ph.D.をとれないかもしれないという不安
大学によって卒業要件は様々ですが、論文3報くらいでしょうか。これをかけなければ、卒業が1年ずつ伸びていくことになります。そうなると資金的にも精神的にもヤバくなります。特に研究は運の要素もあり、なかなか論文を書けないということも起こります。。精神の細い人だと研究室に来れなくなるということも起こります。研究室あたり1~2人はいるのではないでしょうか。僕も途中全く結果が出なくなり、とても焦りました。
→これに関しては、修士までに自分の能力から判断することができます。もし修士卒業までに論文を1報でも出せていればほとんど問題視する必要はないです。
③孤独になる
修士までの友人が皆卒業してしまうので、当然孤独です。友達がいなくなり、悩みを相談できず、鬱になり、大学を辞めていった人もいました。
→だからこそ、他の研究室とか、他の大学の博士課程の同期と仲良くなっておきべきです。あちらも孤独を抱えているので、とても仲良くなれます。
ということで、博士にはメリット・デメリットがあります。ただし、デメリットは「研究が好き」「コミュニコーションが好き」であれば解決できます。なので、これらを満たしている人は大丈夫だと思います。
どの研究室で博士課程に進むか
おそらく多くの人が修士の時に属している研究室で進学するのではないでしょうか。でも、思考停止でそのまま進んでしまってもよいのか。ラボ選びは研究者の一生を左右します。なので一度立ち止まって考えてみるのもいいかもしれません。
どの研究室に進めばいいか考えるにあたって、必要なこと研究室のスタッフ(教授・准教授・講師・助教)の能力を以下の要素で見極めるコトです。
・研究能力
大事ですよね。研究ができない人の元で研究しても研究者としての成長は見込めません。研究能力の判断は、個人の価値基準によるところなので、深くは突っ込みません。ですが、その研究室の過去3年の論文くらいは最低限チェックしておいたほうがよいでしょう。また、実際にスタッフと話して能力(教授がボケていないかなど)をチェックするのも必要なことです。
・マネジメント能力・スタイル
研究室の色が出るところです。マネジメントが悪くて、研究者が過労死する、なんてことも起こります。また、三年間思考停止で奴隷のように働くなんてこともあり得ます。以下の点に留意して観察するとよいでしょう。
・スタッフの面倒見がよさそうか。
・学生に裁量権があるか。
・研究室の雰囲気が良いか。
・資金調達能力
お金がないと研究ができません。外注すればすぐに手に入る実験材料を1年かけて作るなんて話も聞きます。スタッフがどれだけの研究費を持っているかは調べておいたほうが良いです。KAKENなどで調査できます。
KAKEN:https://kaken.nii.ac.jp/ja/
・他の研究室との交流
他の研究室との交流があれば、自分の知らない分野の先生や学生と仲良くなれます。そうすると情報が集まってきますし、アイディアが生まれます。さらに自分がポスドクになるときに面倒を見てくれる先生を捕まえられたら、キャリアを心配せずに研究に没頭することもできます。孤立している研究室は何かしら問題を抱えている可能性が高いので、避けたほうが良いです。
4点すべてを満足している研究室なら全く問題がないです。でもそんな研究室がなかなかないので、最低2点は自分の基準を満たす研究室に進めればいいでしょう。
次は「博士に進むか企業に進むか」という記事にします。