Ph.D.企業研究者の思考貯蔵庫

Ph.D.企業研究者の思考貯蔵庫

博士(農学) → 企業研究者 Twitter → @rhizobium13

分人という考え方で、気楽に生きていこう!

 簡単書籍紹介コーナーでは、その名の通り簡単にオススメ書籍を紹介していきます。 

第一弾は、平野啓一郎著 「私とは何か」です。

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

 

 こちら、僕の母親から紹介されました。母曰く「どうしても人にオススメしたくなる本」 だとのことで、せっかくなので買って読んでみました。

 親孝行です!!

この本、一言でいうと、「分人」というものを新しく定義した本になります。その定義が斬新ながらわかりやすく、すごく腹落ちするので、僕はこの本を読んでから「分人主義者」になりました。

 

目次

 

分人の定義

 個人って英語に直すとindividualですよね。これは、分けるという英単語divideから派生したdividualに、否定のinが接頭についています。式で表すと

 individual (個人) = in (否定) + dividual (分ける)

となります。すなわち、これまでの西洋的視点では、

 個人 = 分けることのできない最小単位

ととらえられてきたことになります。物理的に分けたら死んじゃいますもんね( 一一)

 この「個人=分けることができない」という考えは、すべての根本的な考え方に立っており、権利や罪も個人に紐づいています。すなわち個人とは、本質的には一つの考え方・哲学を持った一人のヒトという概念です。ヒトの本質的な人格は一つである、と考えます。

 簡単に言うと、自分の中に「本当の自分」が一つだけ存在するという考え方です。

 一方で、平野は新しい概念として、分人を持ち込みました。分人とは、individual から否定のinを取り去ったもの、すなわちdividual (略してdiv(=ディブ))と英訳されます。個人というものをもっと細分化できるだろう、と平野は唱えています。

 分人 = 個人は多数の人格から構成されている。

というものです。(多重人格とは意味が違うのでご注意を。)

 

分人の深堀り

 これだけでは何を言っているのかわかりません。なので例を出して考えてみましょう。何か事件が起こった時に、よくインタビューで「あの人はこんなことする人じゃない」という人がいますよね。ほかにも、いじめっ子の親が「この子はいじめなんかする子じゃない。優しい子です」なんて庇う場面は想像できますよね。これを個人という概念でとらえると、

(個人1) 本当のあの人は、犯罪を犯すような人格を持った極悪人だった。

(個人2) 本当の息子は、いじめをするような人格を持った悪い子だった。

ということになります。個人では「本当の自分」「本当のあの人」を定義して、人格を語らなければならないのです。いつもと違う友人を見て「本当のアイツ」はこんなんじゃない、と思ったことはないですか。

 でも分人という概念では、

(分人1) あの人(犯罪者)は私に向けてはいい人格を見せていた。でも被害者に対しては犯罪を犯すような人格を持った極悪人だった。

(分人2) 息子は家庭ではいつも優しい気の利く子だった。でも学校というコミュニティではいじめをするような人格を持った悪い子だった。

 という捉え方をします。したがって、「本当の自分」「本当のあの人」という考え方を捨てて、人格はコミュニティによって変わるものだと考えます。

 自分の人格は、自分が向かっている相手によって相対的に変わる、ということを意味しています。これが分人の考え方です。

分人の図解

  分人を図解するなら、下の図のようになります。割合はあなたが重視している度合い、すなわち下図では家族に40%、友人1に20%、同僚1に15%の分人を割いていることになります。また、色ごとに分人(=人格)が異なります。家族の前の自分と、友人の前の自分、同僚の前の自分は異なりますよね。これは一人がキャラを使い分けているのではなく、その人に分人がいくつも内在しているということを意味します。友人の前で自然と人格が変わるのもそう解釈できます。

f:id:rhizobium:20190603234059p:plain

 

分人の構成が崩れると

 下の図では、分人の割合が過度に職場に割かれています。このように分人の構成が崩れてしまうと、職場の出来事によって過度に一喜一憂してしまいます。このような人は、仕事が上手くいかなくなると、自分の存在が否定されたような気がして鬱になってしまうので要注意です。できるだけバランスをとって、分人ポートフォリオができれば、メンタルの強い人間になれます。

 また、子育て中の女性なども要注意です。分人が夫と子供の2人で構成されることになってしまうことがあります。産後鬱などはこのパターンもあるでしょう。このような人は、意識的に分人を増やすとよいでしょう。

 

f:id:rhizobium:20190603234750p:plain

本当の自分って

 本当の自分がわからなくなったときにやりがちな反応は2つ。自分探しの旅引きこもりです。自分探しは、いったん今ある関係から去って、海外に行ったりボランティアをしたりして、「本当の私の人格は何だろう」と考えることです。一通り終えると、なんか新しい自分を見つけたような満足感とともに帰ってきます。分人主義で考えると、これは新しい分人が生じたことによるものです。「本当の自分」が見つかったからではありません。だって分人主義では「本当の自分」は存在しないんですから。

 一方で引きこもりは、すべての分人を消して、自分自身に集中する行為ですね。人の人格は、相手との関係で相対的に決まるものなので、引きこもっても分人は生じません。ただ、つらくなるだけです。

 なので、「本当の自分」は存在しないという前提に立って、自分はコミュニティによって相対的に人格を変えるんだ、一つのことに分人を割くのに注意しよう、ということを理解していれば、気楽に生きれます。

 上司や教授に生き方を否定されたって、私の違う分人では否定されていないのです。ほかの分人が助けてくれます。仕事が嫌になったら、その分人を捨てて、新たなところで頑張ればいいのです。

 分人ポートフォリオをうまくコントロールしながら、気楽に生きましょう!!

 これが僕のメッセージであり、日々実践していることです。皆さんもぜひ。

 

参考

 この記事がとても面白いです。

cybozushiki.cybozu.co.jp